皆さんは薬物依存患者というと、どんな印象がありますか?ヤクザ、マフィア、不良とあんまり良いイメージは無いでしょう。当然それ自体犯罪ですから、嫌悪感を抱く方も多いと思います。
一概に依存する薬物にも色々な種類があります。覚せい剤、麻薬、コカイン、大麻、幻覚剤、シンナーなど、ちなみに精神安定剤や鎮痛剤、アルコールも依存性薬物と言われております。その中でも日本では取り分け、覚せい剤が多いんです。
理由としては、戦前の日本で覚せい剤を痩せ薬「ヒロポン」として薬屋さんで普通に売っていた事や、戦時中、神風特攻隊のパイロットに飲ませていた事などが関係しております。
今では夜の繁華街などで、簡単に手に入れることが出来るんです。海外でグラム数十円の薬が末端価格で数千~万円で売れる。さらに、その人が依存になれば、どんなに値を吊り上げても手に入れようとしますから・・これほど良い商売はないですよ。言ってみれば、日本は覚せい剤大国なのかもしれません。
最近でも東京クリニックの事件で、「リタリン」という覚せい剤を最初から処方し、依存患者にして、長期に通院させるという痛ましい事件もありました。その時依存症になった患者さんは何年もたった今でも苦しんでいます。あとアイドルの酒井法子さんが捕まったのも記憶に新しいところです。あんなに成功した彼女が何故・・・?本当に怖い薬剤ですよ。
今回は覚せい剤で、全てを無くした患者さんの悲しい話です。
その患者さんは30歳代の男性で、4人兄弟の末っ子です。山奥の車の中で練炭自殺を図り、救急病院に運ばれ、意識が回復したのですが、2週間くらいで徐々に話をしなくなり、食事もしなくなったとのこと。精神的なものではないかと、実家のそばの僕の勤務先の病院に、転院してきたんです。
彼は元々覚せい剤中毒でした。中学生の頃から素行不良であり、学校に行かずにシンナー、大麻、覚せい剤という風に依存薬物に手を出していったんです。18歳の時に警察に逮捕され、執行猶予がつくのですが、半年後には再犯し服役1年半の実刑。出所する時には両親に「2度としない」と約束するんですが、すぐに覚せい剤を始め、警察に逮捕されてしまうんです。
そういうことを、何度も繰り返し、結局30歳までに5回の服役。徐々に刑期は延びるんですが、出所してもすぐに再犯、彼は20歳代のほとんどの時間を、刑務所で過ごしていたんです。30歳で出所してから、1年後に結婚するのですが、覚せい剤を止める気配はなく、借金がかさみ、薬が手に入らないことからイライラして、奥さんに対して暴力を振るうようになり、徐々にエスカレートしていきました。
そんな中で奥さんは離婚を決意し、彼の両親に何度も相談に行くのですが、両親が金銭的な面倒をみるので、何とか別れないでくれと、泣きながら頼まれたそうです。しかし、覚せい剤も暴力行為もどんどん酷くなり、このままでは殺されると、ある夜、奥さんは家出をしました。当然彼は怒り狂って、彼女を必死に探したんです。
しかし、奥さんの行方は解らず、3日後に山中の車の中で、彼は練炭自殺を図ったんです。
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