気体・液体・固体のどれとも異なり、物質の第四態ともいわれるプラズマ。プラズマディスプレイや半導体プロセスプラズマなどの低温プラズマから、宇宙・太陽プラズマや核融合エネルギーへ利用される超高温プラズマに至るまで、物理的にも面白く、美しく、応用範囲の広い現象です。
この分野では、このプラズマを道具として、エネルギー分野を取り巻く緊急性の高い課題を対象に、エネルギーシステム・制御の分野と協調して研究に取り組んでいます。
具体的な研究テーマとしては、人類究極のエネルギー源といわれる核融合エネルギーの実用化、100 万ボルト送電や高温超電導送電の利用による電力システムの大幅な効率化、さらには、社会的に取り組みが要請されている環境の保全と改善を目的とする課題が挙げられます。
一方、プラズマの応用に関する研究テーマも近年広範囲に及んでいます。例えばプラズマの特性を活かした有害化学汚染物質の効率的な分解技術、殺菌やDNA 操作などのバイオ技術、怪我や病気治療などの医療技術、ナノテクを駆使した新しいセンサデバイス技術、カーボンナノチューブなどの新素材生成技術の開発等々。人類にとってのフロンティアである、宇宙の解明や利用に伴った諸問題にも取り組んでいます。
このように、21 世紀中に人類が直面する諸問題を解決するには、プラズマ、放電、材料、デバイス、バイオ、機器、システム、運用制御に至るまで広範な技術分野を技術的ベースとし、さらに資源問題やエネルギー戦略など長期展望の視点を併せ持つ総合力が要求されます。こうした要請に応えるべく、この分野では、電磁気に始まる基礎科目から応用科目までを幅広く網羅。プラズマ、エネルギー分野のみならず社会の幅広い分野で活躍できる豊かな人材の育成をめざしています。
核融合エネルギー開発
海水の重水素から無尽蔵のエネルギーを生み出す、核融合エネルギー。核融合反応が持続する「人工太陽」が実現すれば、CO2 やNOx、SOx を発生しない無尽蔵のエネルギー源として環境問題の抜本解決になります。
いよいよ世界の7 極協力で国際熱核融合炉ITER がスタートし、工学実証がはじまる中、重要な課題は、いかにその経済性を高めるかです。磁力線で作った容器でプラズマを閉じこめる核融合炉は、磁場強度がコストに直結します。弱い磁場で高圧力の核融合プラズマを閉じこめることができるコンパクトな設計が求められます。我々が開発した「球状トカマク」は、ドーナツ状の磁力線をリンゴのようにぎゅっと圧縮してコンパクト化し、経済性を数倍に高めたもの。ITER の先の実用炉に向けた原型炉開発はもう始まっています。
プラズマ応用技術の開発
プラズマは電子やイオンなどの荷電粒子、反応性の高い活性種や励起種を大量に含む、反応性の極めて高い電離気体です。この高い反応性を活かして、プラズマは環境浄化、水処理、バイオ、医療、高効率燃焼、半導体製造、表面処理、レーザなど、様々なところで利用されています。例えばプラズマ環境浄化技術は、従来の化学物質を用いた環境汚染物質処理法に比べて取り扱いが簡単、装置が小型、エネルギー効率が良いという利点があります。この他にも、プラズマは癌治療、低環境負荷・高効率燃焼、次世代太陽電池の製造など、環境・エネルギー・医療分野で広く研究されています。我々はこうしたプラズマ応用技術の開発を行い、さらにプラズマで起きている反応をレーザ計測や反応シミュレーションで詳細に解明し、応用技術の開発につなげる基礎研究にも取り組んでいます。
100 万ボルトの世界
高電圧・放電プラズマ現象は、ナノオーダから地球規模にまで広がる諸問題の解決に活用されています。このように広範な学問領域を究めるべく研鑽を積んだ人は、社会のどの分野でも活躍できると確信しています。この考え方に基づき、プラズマ技術、エネルギーフロンティア技術のバックボーンとなる計測手法の開発、物理現象の解明、現象の工学的制御、さらには新しい応用分野の創出などに関連する研究テーマに取り組んでいます。
例えば計測技術。高電圧を取り扱うには対象の状態を把握する計測技術が欠かせないものの、高電圧が加わった部分や放電現象を計測するのは意外に難しく、通常の測定装置では太刀打ちできません。そこで100 万ボルトの高電圧を安全かつ正確に測定できるセンサや、見えない電気をレーザ光で可視化する技術の開発を世界に先駆けて進めています。